2012年05月29日

地球SF大全 1  『デビルマン』(永井豪とダイナミックプロ)


 「地球SF大全」について

 これから、「地球SF」と考えられる作品を取り上げて、交代で論じていこうと思います。
 1か月に1篇を計画しています。
 「地球SF」という概念をとおして、いろいろと見えてくることがありそうだからです。

 さまざまな主義主張は、「地球」というものをどう考えるかで、ある程度分かれるのではないでしょうか?
 『鉄腕アトム』……初代アニメ版の最終回は「地球を守るためのアトムの死」でした。でも、主題歌にアトムは「人間守って」と唄われています。これが、「地球を守って」だったら、相当に印象が変わります。
 『ウルトラマン』……彼にとっての地球とは、つまり何だったのでしょうか?
 『科学忍者隊ガッチャマン』……主題歌に「地球はひとつ♪」と唄われています。そして、ラスト近く、物語はあからさまに「地球そのものを守る戦い」に変化します。
 『宇宙戦艦ヤマト』……地球がまさに「国土」のアナロジーになっています。

 その作品にとって、地球とは何なのか?
 単なる「居住可能な惑星のひとつ」なのか? あるいは、かけがえのない「聖地」なのか?
 このように、いろいろな視点から、さまざまな「地球SF」を論じていこうと思うのです。
 
 第1回は、この名作について考えてみることにしました!

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地球SF大全 1 『デビルマン』(永井豪とダイナミックプロ)

(書誌情報(註1)をご覧ください。引用は講談社漫画文庫(新装版・全4巻)2009年からになっています。)

 宮野由梨香

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 初出は〈週刊少年マガジン〉の1972年25号〜1973年27号であるから、40年前の作品である。
 だが、名作は常に新しい。『デビルマン』は何度も版を改めては出版され(註1)、今も順調に売れ続けている(註2)。
 この2012年の4月6日にも、新しい版の第1巻が講談社から発売されている。(全4巻がそろうのは、7月6日の予定)

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 (ネタバレあります! 未読の方は読んでからお越し下さい。)


 この作品を「地球SF」と認定するのは、「地球の支配権」をめぐる話だからである。
 
 主人公・不動明は「デビルマン」だ。
 「デビルマン」とは何か?
 理性を持つ人間でありながら、デーモンとの合体に成功した者のことである。
 デーモンは何か?
 ホモ・サピエンス誕生以前に、地球の支配者だった者たちのことである。
 あらゆる者と合体し、その能力を自分のものにできるのがデーモンだ。しかし、デーモンは人間とだけは合体しにくい。人間は「理性」をもっているからだ。
 
 「あらゆる物体 あらゆる生物と合体できるデーモンが なぜ 人間とだけ合体しにくいか・・・・それは 人間がデーモンのきらいな物をもっているからに ほかならない」                              (第1巻188頁)


 不動明は、親友の飛鳥了からこのように聞かされる。
 飛鳥了は考古学者である父から、デーモン研究の成果を遺産として託されていた。
 
 「それは 理性だよ 人間がもっとも人間らしく生きるための心……理性  そいつが デーモンには たまらなくいやなのだ」(同上)
          
 
 だから、デーモンと合体する人間は、合体の瞬間には理性をなくし本能だけで動いていなくてはならない。しかし、その人間にもともと確固たる「理性」がない場合は、デーモンに意識を乗っ取られ、デーモンの一員になってしまう。
 「デーモンと合体し デーモンの超能力を手に入れ 人間の心をもちつづけることのできる者」(第1巻167頁)つまり、デビルマンになるためには「デーモンの意識をおさえる強い意志 善良で純粋な心を持ち 正義を愛する」(同168頁)という資質が必要なのだ。
 
 「だからおれは 不動明 きみをえらんだ!」(同169頁)

 
 と、明の親友、飛鳥了は言う。
  飛鳥了の父が息子に託した遺産とは、「デーモンと戦う方法」(同118頁)だった。 
 
 「デーモンと戦う方法 それは! 自分自身がデーモンとなることだ」(同149頁)

  
 そして、不動明は飛鳥了の要請に応じて、自ら「デビルマン」になる。
 物語は、それから明が抱えることになった運命を語っていく。
 ここで注意したいのは、最初から「地球の支配権」が話題になっていることである。
 飛鳥了は、誰が地球の支配者になるかだけが、関心事のような語り方をする。

 「もともとかれらの地球だからな  デーモンにしてみれば人間はひるねのうちにはいったコソドロだよ  うばいかえすのがとうぜんだろう」(同112頁)
 「地球を! おれたちの地球をやつらにわたしてはならない!」(同197頁)


 もちろん、デーモンが地球を支配するようになれば、人類は滅びるだろう。しかし、例えば飛鳥了は、不動明を「デビルマン」にしたてあげる過程で犠牲となった「快楽を追って理性をすててあそぶのになれている」(同190頁)人々のことなど、いっさい意に介さない。
 そして、明は、自らの身体がデーモンと合体することを、人間としての自らの死だとは考えない。それだけ、彼は「理性派」なのである。正義感に燃えた理性派の少年は自らの身体を顧みない。……こういう少年こそが「デビルマン」となる素質を持つ。
 なかなか、意味深長な設定である。
 
 では、再度問おう。
 「デビルマン」とは何か?
 「人間がもっとも人間らしく生きるための心……理性」(同188頁)と飛鳥了は言った。
 デーモンの身体を理性でもってコントロールする…これはすなわち「近代理性人」の隠喩にほかならない。その意味では、すべての「近代理性人」はデビルマンだ。(註3)
 我々の身体性に深く根ざした無意識の領域にひそむ、まさにデーモニッシュな欲望、それが、理性によって支配すべき「デーモンの身体」だ。デビルマンが得た「デーモンの身体」とは、いわば「内なる自然」のメタファーである。
 そして、その体を使って戦い滅ぼすべきデーモンとは、「人間と対峙するものとして位置づけられた自然」のことである。
 地球の先住者デーモンとは、人類以前に存在した「自然」の総体なのだ。地球の生態系を構成する彼らは、分離不能な合体物である。
 近代理性人は、内なる自然も、外なる自然も、自らの理性によってコントロール可能なものと考えた。いわば、「身体」も「地球」も自分の支配下に置けると考えたのだ。
 その結果、どういうことになったか? 
 現代に生きる我々は、既にその答えを知っている。
 
 デビルマンとなった不動明は、デーモンと必死に戦う。
 だが、戦えば戦うほど、「近代的市民」や「理性」は、その暗黒面をあらわにしていく。
 デーモンの存在を知った「近代的市民」たちは、デーモンを悪魔と認識し、その悪魔と戦うために「悪魔特捜隊」をつくる。だが、それは、無実の人間を連行しては殺す役割しか果たさない。
 不動明がデーモンの体をもつことが告発され、彼の育ての親の牧村夫妻は、そこに連行される。「兵器の城」であり「機械文明の最期の砦」(第4巻170頁)であるそこを、不動明であるデビルマンが襲う。しかし、牧村夫妻は、既に拷問の末に殺されていた。
 
 「地獄だ・・・・ここは・・・・人間がつくりだした地獄だ! 悪魔からの恐怖から逃げるため・・・・人間みんなが恐怖をあたえる側にまわろうとあがいている  被害者から加害者に・・・・ここだけのことではない 人間ぜんぶが自分より弱い者をたたこうとしている・・・・」(同212頁)

 
 人間を守るためにデビルマンになった不動明。だが、人間とは、そうまでして守るほどのものだったのか? 
 特捜隊の中の生き残りが、デーモンの姿をした明を悪魔と思い込んで、このような命乞いをする。

 「お・・・・おれたちのやったやつらは みんな 人間だったよ。……中略……だ、だから 悪魔を殺してはいないさ・・・・そ それに おれたちも すきでやっているんじゃない 上からの命令なんだ・・・・ わかってくれ」(同123頁)

 
 まさしく、アイヒマンのセリフである。
 明は叫ぶ。
 
 「これが! おれが身を捨ててまもろうとした人間の正体か!」(同125頁)


 人間に絶望した明は、戦いの目的を「人間を守る」から「美樹を守る」に切り替えることでモチベーションを保とうする。美樹とは、明が愛する少女のことだ、だが、美樹は悪魔を恐れる群衆によって既に殺されていた。
 明は首から切り落とされた美樹の頭部を抱きしめて泣く。(註3)
 しかし、どこまでも「理性を持つ者」であることにこだわる明は、だからこそ、戦いを止めることができない。
 そして、彼をデビルマンにした飛鳥了は、このようなことを言い始める。

 「不動明 きみは何者だ 人間か? ちがうだろ もとの人格が人間のものであっても きみは どこから見てもデーモンなんだよ ……中略……不動明が生きられる世界はデーモンの世界だけなんだ! 人間はほろびる! 自然にね・・・・ デーモンはもう手をくださないだろう 人間の滅亡をしずかに待つつもりだ」(同157頁)

 
 思いもよらない飛鳥了の言葉に、不動明は驚愕する。
 飛鳥了が、その正体を明らかにした瞬間である。
 
 「わたしがきみをデーモンと合体させたのは 人類をまもらせるためではなかったらしい あのときは そう思っていたんだが ほんとうは きみを 新しい世界に生きのこらせたかったかららしい  わたしはデビルマン軍団とは 戦いたくない  新しい時代に生きてくれ」(同159頁)

 
 飛鳥了は、実はデーモンの指導者たる「サタン」であった。彼は人間を有効に攻撃する手段を探るために、自らに偽の記憶を植え付け、人間に変身していたのだ。 
 明は、もちろん、「新しい時代に生きてくれ」という、このサタンの説得に応じない。
 理性をもつ人間であることに固執する彼は、デーモンの一員となって生きることを潔しとしないからだ。
 かくて、人類滅亡後の地球での、異形の者と化した不動明(デビルマン)と飛鳥了(サタン)との熾烈な戦いが描かれる。
 そして、ラスト8ページ前(第4巻318頁)で、その戦いの画面は一転する。
 美しい星空……満月が雲間から現れる。
 「月だ・・・」
 月を見上げるのは、不動明だ。
「うつくしい  明・・・月だけは数百万年前とかわっていないよ・・・ 地球はあの月よりもうつくしかったのに・・・」
 そう応じる飛鳥了は、不動明の隣に横たわっている。
 その飛鳥了にはバストがある。飛鳥了=サタンは、両性具有だったために、不動明を男として愛してしまった。そのためにデーモンたちはデビルマン軍団と戦わなくてはならなくなったとの説明が、その前にある。 
 しかし、描かれているのは、月を見上げ岩に横たわる裸の若い男女の上半身である。…いきなりここだけを見れば、艶っぽい場面と見るのが自然であるような絵だ。
 そして、飛鳥了=サタンは話し始める。この戦いのそもそもの発端を。
 話は、誰が地球をつくったのかということから、始まる。
「この小宇宙は・・・・わたしの親たちがつくったんだよ・・・・きみたち人間は神と呼んでいたね  そして彼らはこの辺境の小宇宙に生命をふきこんだ  地球は生命にみちあふれ いろんな生物がそだっていた」
 地球を作ったのは、神だったのだ。
 そして、その数億年後、神は、自分たちの意図通りに進化しなかったとして、このような判断を下した。
「神はこの小宇宙を無にかえすことにきめた!  すべてを消すことによって自分たちの失敗をつぐなおうとした! わたしはいかり反抗した」
 デーモンが、神によって抹殺されようとした時、サタンは戦わずにはいられなかった。もともとサタンは最高位の天使であり、神の側に属するものである。しかし、サタンは神を裏切り、悪魔=デーモンの側についたのだった。
「自分たちが生みだした生命だから勝手に殺していいというのか  地球上の生命は生まれたくて生まれたんじゃない・・・だが 生きている!!  自分の意志で 自分の心で 必死に生きている」
 地球の支配権が造物主=神にあるという考えを、サタンは否定した。
 そして、神との戦いにサタンは勝った。だが、次なる神との戦いに備えて眠りについている間に、人間という新生物が、地球上にはびこっていた。
「ねむりからさめたとき 地球はかわっていた… うつくしいはずの地球はよごれきっていた…人間という新生物のために… わたしはゆるせなかった わたしが命をかけてまもった地球をよごした人間を!」
 サタンが守ろうとしたのは、なによりも「うつくしい地球」だったのだ。
 だから、「わたしは人間をほろぼすことにした」とサタンは言う。
 サタンは、デーモンを守るために人類を滅ぼそうとしたのではなかった。「うつくしい地球」のためである。
 地球が、本能だけの存在であるデーモンの星だったころ、地球は汚れてはいなかった。地球を汚したのは、むしろ「理性」である。「デビルマン」はその意味では「理性」を告発している。
 そして、更に注意したいのが、この後のサタンの発言である。
 サタンは、このように言うのだ。
「だが それは 神がデーモンをほろぼそうとしたこととおなじ行為だった・・・・力の強い者が強いからといって弱者の命を権利をうばってよいはずはないのにな・・・・ゆるしてくれ 明・・・・わたしはおろかだった」
 このセリフは、強烈な印象とともに、奇妙な違和感を読後に残す。
 暴力の否定…これこそが、理性の理性たるゆえん、輝かしい本来の姿ではないか?
 何と理性的なサタン! だが、実は彼(彼女)の悲劇はそこにあった。このような発言をするサタンだからこそ、不動明に惚れたのだ。
 前述したように、人間をほろぼすことに決めたサタンは、人間の弱点を探るため、人間・飛鳥了になりすました。そして、不動明を愛してしまった。男である不動明を愛したことについて、サタンは「それは・・・わたしが・・・両性生物だったから」と、告白する。
 サタンも、自分の身体によって裏切られたのだが、そのサタンが人間の中から特に「不動明」という少年を選び出して愛したのは、不動明が「正義感に燃えた理性的な少年」だったからである。初登場の時の不動明の弱虫ぶりを見るがいい。「力の強い者が強いからといって弱者の命を権利をうばってよいはずはない」というような考え方に、彼なら大いに賛同するだろう。
 その不動明は、今、サタンの隣に横たわっている。
 サタンはようやく不動明を手に入れた。 だが、その不動明は、胴体から下の部分を失っている。
「明・・・・ねむったんだね・・・・明  永劫のやすらぎのねむりに・・・・」
 サタンは涙を流す。 
 そして、地球には、すべてを無に帰そうとする「神の軍団」が降りきたる。

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(註1)初出〈週刊少年マガジン〉1972年25号〜1973年27号 → 講談社コミックス(全5巻)1973年 → 講談社コミックス(改訂版・全5巻) 1982年 → 講談社漫画文庫(全5巻) 1977年 →KCスペシャル(講談社・全3巻) 1983年 → KCDX・完全復刻版全5巻 1993年 → 豪華愛蔵版(講談社・全5巻) 1987年 → 講談社漫画文庫(改訂版・全5巻) 1997年 → 限定「ダイナミックボックス」用(双葉社・全1巻 )2000年 → スーパーベストKC(講談社・全3巻) 2000年 → KBC(バイリンガル版)(講談社・全5巻・英語対訳つき) 2002年 → 月刊「完全版 デビルマン×キューティーハニー」(講談社・全7巻)2004年 → KPC (講談社・全3巻 )2004年 →ミニコミvol.1(セガトイズ) 2006年 → KCDX・愛蔵版(講談社・全1巻 )2008年 →講談社漫画文庫(新装版・全4巻) 2009年 → KCDX・改訂版(講談社・全4巻)2012年4月現在、第一巻のみ発刊済み)

(註2)「『デビルマン』は単行本として今日まで売れ続け、ロングセラーとなった。」と、永井豪は「改訂版『デビルマン』について」(『改訂版 デビルマン』2012年4月刊所収)で述べている。

(註3)「デビルマン」にこめられた意味については、作者自身が『激マン』という作品で語っている。それはそれで興味深いのだが、ここでは宮野が『デビルマン』を読んで考えたことをもとにして論を立てている。

(註4)明にとって、美樹の本質とは「頭部」であることがわかる場面である。この美樹の頭部を埋葬する不動明を、飛鳥了が見つめるシーンが印象的である。
posted by 21世紀、SF評論 at 02:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 地球SF大全 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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