2012年07月16日

アニー・ジェイコブセン『エリア51―世界で最も有名な秘密基地の真実』(太田出版) 磯部剛喜

 6月10日付の朝日新聞に、アニー・ジェイコブセンの『エリア51―世界で最も有名な秘密基地の真実』(太田出版)書評が載った。珍しくUFO関連書の書評だったので、さっそく買って読んでみた。原書はアメリカでベストセラーになったそうだが、はずかしながら、未読だった。読んでみたら、かなり驚かされたので、「21世紀、SF評論」の読者のみなさんには、この本の感想をお伝えしておきたい。

エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ) [単行本] /...
エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ) [単行本] / アニー・ジェイコブセン (著); 田口俊樹 (翻訳); 太田出版 (刊)
 誤解のないように最初に言っておきたいが、評者の渡辺靖先生は、アメリカ政治史の著書も多い方で、ぼくはけっこう尊敬している。書評のタイトルも「隠し事はどこまで許されるのか」と付けられていることからも解るように、情報公開という視点から同書を論じているわけで、その点は高く評価されてよいと信じている(念のため)。
 では何に驚かされたのかの言えば、『エリア51―世界で最も有名な秘密基地の真実』自体がトンデモ本だったからである。
 同書は、先進航空機開発計画を始発点として、アメリカの極秘軍事施設エリア51の歴史と実像を調査報道の手法で丹念に追ったものだ。
 第二次世界大戦中にイギリス情報部MI14の委託を受けてロッキード社が始めた先進航空機開発計画は、戦後も継続されて1979年に最初のステルス攻撃機を完成させるわけだが、機密保持のために実験航空機の飛行区域として選定されたのがネヴァダ核実験塲に隣接したグルームレイク一帯だった。
 ニック・ノルディとジェニファー・コネリーが共演した映画『狼たちの街』(1996)をご覧になっただろうか? ノルディ演じるのはロサンゼルス警察本部特捜班の刑事マックス・フーバーで、変死した娼婦で愛人でもあるアリソンの残した8ミリフィルムの映像を追ったフーバーが、彼女の死が軍部の核政策の機密に関係していた真相を突き止めるという物語で、SF映像以外でエリア−51が間接的に描かれる唯一の映画作品であろう。
 立入禁止とされた軍施設に潜入したフーバーたち特捜班が、巨大な核クレーターを発見するシーンは極めて印象的だ。
 エリア−51はこのネヴァダ核実験場と境界線を共有した一体的な軍事施設だったことから、核施設と先進航空機開発計画が一体的な機密性を有するようになった。
 UFO現象がその初期から航空偵察と密接な関係にあったという指摘は、UFO現象学の文献以外でもアレックス・アベラ『ランド――世界を支配した研究所』(牧野洋訳 文藝春秋 2008)で触れられているが、1980年台後半からエリア−51とUFO問題との関連性が注目されるようになったのは決して偶発的なものではない。
 著名なジャーナリストのダニエル・ラングが、その著書『鉛の服を着た男(並河亮訳 時事通信社 1956)』、ナチスの残党を冷戦に利用する極秘計画〈ペーパークリップ作戦〉、先進航空機開発計画、そして核政策という、本書『エリア51―世界で最も有名な秘密基地の真実』で繰り返されるキーワードの関係を詳細に論じていたからだ。
 本書とラングの『鉛の服を着た男』を読みくらべてみると両者の類似性に驚かされる。
 そして本書の主題はあくまでもロズウェルUFO墜落事件である。
 ではジェイコブソンの言うロズウェル事件の真相とは何か?
 それは1947年7月、ロズウェル陸軍航空基地の防空レーダーが2機の未確認飛行物体を補足し、ただちに要撃機が発進した。物体は極めて高速であるとともに、高空でホバーリング運動を見せたのだった。その1機がロズウェル近郊に墜落し、その正体が判明した。それは、アメリカ軍部が繰り返した核実験に脅威を感じたソヴィエトの独裁者スターリンは、アメリカ軍部に対して核兵器をソヴィエトに先制使用するものなら必ず報復攻撃できることを示唆するために、第二次世界大戦中にドイツで開発されていた二機のホンテン全翼機を完成させ、ニューメキシコのロズウェルに強行偵察を目的に送り込んだのが、ロズウェル事件の真相だというのである。ジェイコブソンは、ロズウェルに墜落したのはロシア製の全翼機で、搭乗していたのは、ナチスの強制収容所で人体改造された哀れな犠牲者だった、とも書いている。
 これは、7年前に話題になったニコラス・レッドファーンの『砂漠のボディ・スナッチー』(邦訳『砂漠の死体泥棒』並木伸一郎訳 マガジンハウス)と同じものだ。ただ、レッドファーンは、墜落した全翼機はロシア製ではなくアメリカ製で、搭乗員も日本人だったと書いているが、ジェイコブソンとレッドファーンはほぼ同じものだと言ってよい。
 レッドファーンの調査は、ロズウェルに墜落した物体が、アメリカの核推進機関研究と接点があったと書いているが、それが全くの絵空事だったとは言えない。ラングの『鉛の服を着た男』では、アメリカ空軍のUFO政策が核推進機関研究と関連があることがすでに指摘されており、レッドファーンは核推進機関研究の責任者の一人が、アメリカ空軍情報部のマイルズ・ゴール中佐であることまで突き止めていたからだ。
 ゴール中佐は、UFO現象調査部隊<プロジェクト・ブルーブック>司令官である。彼はブルーブック司令官と核推進機関研究計画指揮官を兼務していたのである。
 レッドファーンの著書は、充分に読む価値のあるものだったが、ジェイコブソンの場合はかなり怪しい。ロシア製の全翼機は、どうやってロズウェルまで飛んできたのだろうか? 東ドイツから大西洋を超えてはるばる飛んできたのか? ジェイコブソンはその発進地については何も触れていないが、推進機関については示唆されている。
 なんと電磁波推進らしいのである。
 電磁波推進で飛行するナチス製のUFO。この言葉に聞き覚えのある方がいるとすれば、それはよほど落合信彦のファンであるに違いない。彼の『二十世紀最後の真実(集英社 1980)』で明らかにされたナチスのUFOは、電磁波推進というハイパーテクノロジイで飛行していたからである。
 ジェイコブセンの『エリア51―世界で最も有名な秘密基地の真実』と『二十世紀最後の真実』の両方で触れられるUFOの推進機関が電磁波推進であったこともまた偶然ではあるまい。もちろん『二十世紀最後の真実』が、カナダのネオナチ出版社サミズダート社から出た『UFOはナチスの秘密兵器か?』を主要な資料にしていることは周知の事実だが、電磁波推進などというテクノロジイを、戦時中のドイツがどうやって開発したかについては『二十世紀最後の真実』では何も触れられていないのだ。
 『UFOはナチスの秘密兵器か?』では、なんとナチスが発見した失われたアトランティス文明の遺産からそのテクノロジイが得られたと書いてある。かくてエリア51においては、アトランティス文明のテクノロジイから建造された全翼機が研究されていたことになるのである。   
 ジェイコブセンの『エリア51―世界で最も有名な秘密基地の真実』には、これまで触れられてこなかった冷戦時代の秘史が多く含まれていることは評価されていいかもしれないが、ことUFO問題に関してはトンデモ本以外のなにものでもないわけで、みなさんはこの本をどう読まれるだろうか? (磯部剛喜)
posted by 21世紀、SF評論 at 16:23| Comment(0) | TrackBack(0) | SF評論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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