2012年12月06日

『人喰い病』(高槻真樹)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)


『人喰い病』
作者:石黒達昌
初出:ハルキ文庫 2000
最新版:(初出に同じ)
担当:高槻真樹
人喰い病 (ハルキ文庫) [文庫] / 石黒 達昌 (著); 角川春樹事務所 (刊)
 北海道の自然は冷涼であるにもかかわらず多様かつ複雑で、本州以南の環境とは大きく異なっている。しかしながら未踏の地ではなく内部に大都市も抱え、常に人と自然は接し続けている。それならば、そこでは本州以南とは異なる特異な現象も多々見られるに違いない。
 石黒達昌はそうした視線から作品を生み出し続けている作家だ。北海道深川市の生まれの医師でもある。確かに北海道の生態系には私たちには馴染みの薄い何かがある。それが非常に分かりやすい形で発現するのが「病」という形式だ。大変よく知られた北海道を舞台とする「病」として、「エキノコックス」を挙げることができるだろう。その媒介の主役となったといわれているのがキタキツネである。北海道のシンボルのひとつとして知られる愛らしい野生動物だが、こうした暗い一面も併せ持つ。
 医師でもある石黒には、当然こうした構図は見えていたはずである。本作の巻末「作者自身によるごく短い解説」で石黒はこう述べている。
 「常々、『医者が病気を診断する過程は推理小説だ』と考えていて、なんとかそれを形にしたかった」
 まさしく現役の医者にしてSF 者でなければ思いつかないアイデアだろう。謎の病の背後には広大な北海道の生態系が隠されており、その中にあえて分け入って原因を突き止め解決策を探る医師の冷静な姿は、ほとんどハードボイルドですらあるといってよい。
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