2013年03月11日

『魔の国アンヌピウカ』(岡和田晃)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞受賞者有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)


『魔の国アンヌピウカ』
作者:久間十義
初出:新潮社 1996
最新版:(初出に同じ)
担当:岡和田晃
魔の国アンヌピウカ [単行本] / 久間 十義 (著); 新潮社 (刊)
 本作『魔の国アンヌピウカ』においては、UFOとユーカラという相容れないようにも見える二つの要素が、見事に「習合」させられている。浮かび上がるのは、アイヌ問題と観光産業が複雑に絡まり合った、北海道の近代化に伴う二重の歪みだ。本作ではアイヌの聖地「アンヌピウカ」とUFOの目撃騒動がストーリーを牽引していく。この「アンヌピウカ」のモデルは、平取町のハヨピラ自然公園である。アイヌに文化を伝えたオキクルミというカムイ(神)がシンタと呼ばれる飛行物体に乗って飛来したとの伝承が残るこの地には、1960年代の後半から、とあるUFO研究団体(作中の「エーテル奉仕協会」のモデル)の施設が存在していた。当時の平取で暮らしたアイヌ初の近代小説の書き手である鳩沢佐美夫は、同胞が観光産業従事者として怪しげなUFO研究団体の片棒を担いだことを批判した。鳩沢が告発した「観光アイヌ」の問題は、本作においては、バブル期の第三セクター主導における大規模なリゾート開発という形で――つまり高度資本主義下の状況にて――再帰的にシミュレートされていく。柴野拓美はSFの定義として「テクノロジーの自走性」を挙げたが、本書では、SFを可能にした近代の原理、すなわち人間の不定形な欲望そのものの自走が北海道の政治的現実を軸に描かれる。SFの脱政治化が浸透し、深刻な問題となっている今だからこそ、読み直されるべき傑作だ。

2013年02月17日

『謀殺のチェス・ゲーム』(渡邊利道)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)


『謀殺のチェス・ゲーム』
作者:山田正紀
初出:祥伝社ノン・ノベル 1976
最新版:ハルキ文庫 1999
担当:渡邊利道
謀殺のチェスゲーム.jpg
 北海道奥尻沖で消息を絶った自衛隊の次世代哨戒機PS-8をめぐって、先鋭的な超理論を駆使する新戦略専門家(ネオステラジスト)の若きリーダー宗像と、元同僚で酒に溺れ脱落した天才藤野による驚天動地の頭脳戦を、自衛隊内部での勢力争いや現場でメカ&肉弾戦を演じる立花と佐伯という二人の怪物の対決、物語にさわやかな花を添える少年少女の淡いロマンスと彼らを追う暴力団の抗争といった要素も配して、北海道にはじまって沖縄の離島まで、日本列島を縦断するサービス満点の痛快娯楽アクション小説。
 一見まったくSFとは関係ないかのように見える本編だが、小説の鍵となる「ネオステラジスト」というアイディアが、数学におけるゲーム理論を、その実際に囚われない虚構的な、物語を推進するSF的ガジェットとして用いているところに最大の読みどころがある。このほとんど暴力的なアイディアが可能になるのは、山田正紀特有の《想像できないものを想像する》という言語のロジックの力によるイメージの超克という志向の故であろう。
 実際、ここでは「北海道」という土地の名も、その生々しい歴史が剥奪されたフィクションの地平でひたすら記号的に配置されるだけであり、その異様なまでの抽象性に、いかにもSF的な残酷さを読み取ることができる。本作を「北海道SF」として読み直してみるとことで、読者はSF的想像力の一面を再確認できるのではないだろうか。

2012年12月06日

『人喰い病』(高槻真樹)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)


『人喰い病』
作者:石黒達昌
初出:ハルキ文庫 2000
最新版:(初出に同じ)
担当:高槻真樹
人喰い病 (ハルキ文庫) [文庫] / 石黒 達昌 (著); 角川春樹事務所 (刊)
 北海道の自然は冷涼であるにもかかわらず多様かつ複雑で、本州以南の環境とは大きく異なっている。しかしながら未踏の地ではなく内部に大都市も抱え、常に人と自然は接し続けている。それならば、そこでは本州以南とは異なる特異な現象も多々見られるに違いない。
 石黒達昌はそうした視線から作品を生み出し続けている作家だ。北海道深川市の生まれの医師でもある。確かに北海道の生態系には私たちには馴染みの薄い何かがある。それが非常に分かりやすい形で発現するのが「病」という形式だ。大変よく知られた北海道を舞台とする「病」として、「エキノコックス」を挙げることができるだろう。その媒介の主役となったといわれているのがキタキツネである。北海道のシンボルのひとつとして知られる愛らしい野生動物だが、こうした暗い一面も併せ持つ。
 医師でもある石黒には、当然こうした構図は見えていたはずである。本作の巻末「作者自身によるごく短い解説」で石黒はこう述べている。
 「常々、『医者が病気を診断する過程は推理小説だ』と考えていて、なんとかそれを形にしたかった」
 まさしく現役の医者にしてSF 者でなければ思いつかないアイデアだろう。謎の病の背後には広大な北海道の生態系が隠されており、その中にあえて分け入って原因を突き止め解決策を探る医師の冷静な姿は、ほとんどハードボイルドですらあるといってよい。
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