2012年08月28日

『白き日旅立てば不死』(藤元登四郎)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)


『白き日旅立てば不死』
初出:早川書房 1972
最新版:ファラオ出版 1992
担当:藤元登四郎
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 荒巻義雄の最初の長編『白き日旅立てば不死』は、精神分析学者ジュリア・クリスティヴァの「間テクスト性」理論よりも、十数年も早く発表された斬新な作品である。三つのテクストから構成され、それぞれのテクストが複雑に交叉しあっている。第一のテクストは、荒巻の高校の同級生の天才少女画家が、十八歳の若さで雪の阿寒湖の畔で自殺を遂げたという実際の事件である。第二のテクストはマルキ・ド・サドの暴力と性的倒錯の異世界、第三のテクストは、現実とサドの異世界の間を彷徨し精神病院に入院した主人公の白樹の体験した世界である。
 白樹は、北海道の精神病院に入院し、失われた過去を思い起こそうと試みた。彼は理由のわからぬまま、ギャンブラーになってヨーロッパを放浪し、ウィーンにたどり着いた。そこで偶然にサドの世界に入り込み、謎の女ソフィーと出会って激しい恋におちた。彼女はある闇の組織に属していたので、救い出してパリへ逃げようと計画したが失敗した。ルーレットの文字盤の赤と黒のように、世界は二重構造をなしており、黒がソフィーの世界、赤は加能純子の世界であった。荒巻によれば三部作になる予定で、第二部『聖シュテファン寺院の鐘の音は』(徳間書店、1988 年)はすでに出版されている。しかし、第三部の『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』は生前には発表されないということである。

2012年08月14日

『白い殺戮者』(忍澤勉)


《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)

『白い殺戮者』
作者:佐々木譲
初出:トクマ・ノベルズ 1986
最新版:徳間文庫 1991
担当:忍澤勉
白い殺戮者 (徳間文庫) [文庫] / 佐々木 譲 (著); 徳間書店 (刊)
 北海道の夕張出身の佐々木譲は、その土地の地域性や特殊性を描き切る作家である。特に北海道の場合、まるで地図を辿るように正確である。『白い殺戮者』にもその手腕はみごとに発揮されている。逆にいえば登場人物たちと、その「相手」の地図上の動きこそが醍醐味なのである。
 大坪は、北士別の歴史を書く仕事を得てやってくる。道中でやがてともに恐怖と対することになる美津子と知り合う。前日、町では男性が凍死していた。警官はそれに疑いの眼を向けている。大坪のためらいから翌晩には中学生が凍死し、彼が取材をした老人も凍死した。立て続けに凍死事件が町を襲う。取材を進める彼に対して、村人は冷たい視線を投げかける。やがて再来した寒波の中で、また人命が失われるが、町長は宣伝のためにテレビ番組の制作を許す。そしてモンスターと化した寒波と大坪たちの闘いが始まり、やがて意外な結末を迎える。
 核は生き物のように動き回る寒気で、この現象と日常の寒さとの間に明確な境がない。それが恐怖の源となっている。
 小説にはオンネベツの血の祝言事件、放射線廃棄物処理施設、「アイヌ・ライケ・ウパシ」=「人を殺す雪」というアイヌの民話などの仕掛けがある。こういったものを読み解くことで、物語の構造が明らかになっていく。廃棄物処理場という自然破壊の現場から「人を殺す雪」が現れて、まさに人を殺していくのだ。そこには作者の今日まで繋がる社会への眼差しが感じられる。

2012年08月08日

“Silently and Very Fast”(橋本輝幸)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。
 なお、本レビューはゲスト寄稿者として「SFマガジン」で「世界SF情報」を連載中の橋本輝幸氏にご担当いただいております。(岡和田晃)

“Silently and Very Fast”
作者:Catherynne M. Valente
初出:WSFA Press 2011 ※未邦訳
最新版:Prime Books“The Year's Best Science
Fiction & Fantasy 2012” 所収 2012
担当:橋本輝幸
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 本篇は2012 年4 月現在の、ヒューゴー・ネビュラ両賞のノヴェラ(中篇小説)部門候補作である。
 22 世紀。クマやキツネが暮らす原始の森に囲まれた、知床半島南部の岬に巨大な屋敷が建っていた。平安時代と16 世紀イタリアの建築様式をあわせ、モダンに仕立てられた美しい館だ。家主は日伊ハーフの天才プログラマー。彼女は守り神のような存在をイメージして家の管理を司る人工知能(AI)を開発し、自宅にも最新のAI を宿らせる。現在の一歩先にあるサイバーパンクの時代からシンギュラリティにいたるまでの一家の五世代が、このAI の視点から語られる。ひとことでいえば被造物の人生と意識の物語である。
 ウェブ文芸誌〈クラークス・ワールド〉で昨年連載された本篇は、まぎれもなく「本格北海道SF」だった。まず北海道がおもな舞台である設定が、こだわりをもってちゃんと作品全体に活かされている。登場人物のうち三人の名(阿寒・沙流・声問)の由来は道内の地名だ。また、まさかHonshu(本州)という単語を英語SF で目にしようとは!
 ちらりと差しはさまれる道東の静謐な自然の描写は、全体にちりばめられた世界の神話や童話のモチーフとも違和感なくなじみ、幻想的な雰囲気を支えるのに一役かっている。
 著者キャサリン・M・ヴァレンテは1979 年生まれ。近年活躍めざましい幻想小説作家で、横浜にニ年間居住した経験がある。

2012/12/05、編集追記:「SFマガジン」2012年11月号にて本作が「静かに、そして迅速に」との邦題で訳されましたが、SFマガジン編集部になる解説(「The Best of 2012 特集解説)」は本記事を参考にしているということです(「SFマガジン」2013年1月号、編集後記より)。また、橋本輝幸さまのTwitterによれば、キャサリン・M・ヴァレンテの住まいは、「横浜」ではなく、「横須賀」だったとのこと(https://twitter.com/biotit/status/266565498739761152)。併せて明記しておきます。
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