2012年08月08日

“Silently and Very Fast”(橋本輝幸)

《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。
 なお、本レビューはゲスト寄稿者として「SFマガジン」で「世界SF情報」を連載中の橋本輝幸氏にご担当いただいております。(岡和田晃)

“Silently and Very Fast”
作者:Catherynne M. Valente
初出:WSFA Press 2011 ※未邦訳
最新版:Prime Books“The Year's Best Science
Fiction & Fantasy 2012” 所収 2012
担当:橋本輝幸
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 本篇は2012 年4 月現在の、ヒューゴー・ネビュラ両賞のノヴェラ(中篇小説)部門候補作である。
 22 世紀。クマやキツネが暮らす原始の森に囲まれた、知床半島南部の岬に巨大な屋敷が建っていた。平安時代と16 世紀イタリアの建築様式をあわせ、モダンに仕立てられた美しい館だ。家主は日伊ハーフの天才プログラマー。彼女は守り神のような存在をイメージして家の管理を司る人工知能(AI)を開発し、自宅にも最新のAI を宿らせる。現在の一歩先にあるサイバーパンクの時代からシンギュラリティにいたるまでの一家の五世代が、このAI の視点から語られる。ひとことでいえば被造物の人生と意識の物語である。
 ウェブ文芸誌〈クラークス・ワールド〉で昨年連載された本篇は、まぎれもなく「本格北海道SF」だった。まず北海道がおもな舞台である設定が、こだわりをもってちゃんと作品全体に活かされている。登場人物のうち三人の名(阿寒・沙流・声問)の由来は道内の地名だ。また、まさかHonshu(本州)という単語を英語SF で目にしようとは!
 ちらりと差しはさまれる道東の静謐な自然の描写は、全体にちりばめられた世界の神話や童話のモチーフとも違和感なくなじみ、幻想的な雰囲気を支えるのに一役かっている。
 著者キャサリン・M・ヴァレンテは1979 年生まれ。近年活躍めざましい幻想小説作家で、横浜にニ年間居住した経験がある。

2012/12/05、編集追記:「SFマガジン」2012年11月号にて本作が「静かに、そして迅速に」との邦題で訳されましたが、SFマガジン編集部になる解説(「The Best of 2012 特集解説)」は本記事を参考にしているということです(「SFマガジン」2013年1月号、編集後記より)。また、橋本輝幸さまのTwitterによれば、キャサリン・M・ヴァレンテの住まいは、「横浜」ではなく、「横須賀」だったとのこと(https://twitter.com/biotit/status/266565498739761152)。併せて明記しておきます。
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