2012年08月14日

『白い殺戮者』(忍澤勉)


《プログラムブック版「北海道SF大全」再掲にあたって》
 日本SF評論賞チーム有志は、去る2012年7月7日〜8日に開催された夕張での第51回日本SF大会(Varicon2012)を応援するために、大会参加者に限定配布された「Varicon2012プログラムブック」へ600字程度の「北海道大全」(北海道に関したSF作品のレビュー)を寄稿しました。
 それぞれの原稿が扱った題材は、Varicon2012の公式サイト(http://www.varicon2012.jp/index.html)で連載されたものと重複しますが、単なる縮約にはとどまりません。より広い読者へ向け、SFの意義を提示する開かれた文章を目指しました。このたび、その意義をご理解いただいた関係各位の許可を得て、「21世紀、SF評論」において、連載という形で再掲していきます。ご笑覧いただけましたら幸いです。(岡和田晃)

『白い殺戮者』
作者:佐々木譲
初出:トクマ・ノベルズ 1986
最新版:徳間文庫 1991
担当:忍澤勉
白い殺戮者 (徳間文庫) [文庫] / 佐々木 譲 (著); 徳間書店 (刊)
 北海道の夕張出身の佐々木譲は、その土地の地域性や特殊性を描き切る作家である。特に北海道の場合、まるで地図を辿るように正確である。『白い殺戮者』にもその手腕はみごとに発揮されている。逆にいえば登場人物たちと、その「相手」の地図上の動きこそが醍醐味なのである。
 大坪は、北士別の歴史を書く仕事を得てやってくる。道中でやがてともに恐怖と対することになる美津子と知り合う。前日、町では男性が凍死していた。警官はそれに疑いの眼を向けている。大坪のためらいから翌晩には中学生が凍死し、彼が取材をした老人も凍死した。立て続けに凍死事件が町を襲う。取材を進める彼に対して、村人は冷たい視線を投げかける。やがて再来した寒波の中で、また人命が失われるが、町長は宣伝のためにテレビ番組の制作を許す。そしてモンスターと化した寒波と大坪たちの闘いが始まり、やがて意外な結末を迎える。
 核は生き物のように動き回る寒気で、この現象と日常の寒さとの間に明確な境がない。それが恐怖の源となっている。
 小説にはオンネベツの血の祝言事件、放射線廃棄物処理施設、「アイヌ・ライケ・ウパシ」=「人を殺す雪」というアイヌの民話などの仕掛けがある。こういったものを読み解くことで、物語の構造が明らかになっていく。廃棄物処理場という自然破壊の現場から「人を殺す雪」が現れて、まさに人を殺していくのだ。そこには作者の今日まで繋がる社会への眼差しが感じられる。
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